原油価格高騰と燃油サーチャージ

今年に入り、急激な物価高騰(インフレ)が世界中で問題となり、我々の生活に直に悪影響を及ぼすレベルに達しております。特に原油高は、乗り物だけでなく電力代や製品の製造コストなど多方面に直接的、間接的な影響を及ぼしております。この影響は、もちろん航空業界にも悪影響を及ぼしており、燃油サーチャージが高騰しております。今回は、原油高と燃油サーチャージについて書いていきます。

1)原油価格とジェット燃料価格の推移

まずは過去20年の原油(WTI)とジェット燃料(ケロシンタイプ)の価格推移を見ていきます。原油からできているジェット燃料は、もちろん原油価格と似たような価格推移を描いております(相関係数0.97)。なお、ジェット燃料はケロシンという名の通り灯油の一種であるため、ガソリンと比べてオクタン価が低く、単位当たりの価格はWTIの130ドルにくらべてジェット燃料は3.8ドル程度と、比較的安くなっております。それでも大型機のB777-300ERの長距離路線の場合は、小学校プールの半分の量の17万リットル(約4万5000ガロン)ほど消費し、燃料代は莫大な額になります(134円/ドル、3.9ドル/ガロン計算で175,500ドル≒2350万円!! )。

現在の原油及びジェット燃料価格は、2008年のリーマンショック直前の価格に非常に近いことがわかります。直近までは、もちろんコロナパンデミックによる影響で価格は急落しており、2020年4月には史上初めてWTIが瞬間的にマイナス価格を付けました。これは需要が急減し、当時原油の置き場がなくなったためで、売るほど費用が掛かる状況になりました。そこからわずか2年で過去最高水準まで急上昇したから驚きです。

今回の原油高の主な要因として:①パンデミックによる供給激減とそのあとのアフターコロナ経済による急激な経済活動の回復、②ESG推進による採掘活動の停滞、③ウクライナ戦争によるロシア産資源輸入制限の副作用 が挙げられます。

2)パンデミック前後の燃油サーチャージの推移

次にパンデミック前から現在までの燃油サーチャージの推移を、主要日系エアライン2社の欧米便片道をベースに見ていきます。燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)は、航空運賃に付加される燃料代で、買った月時点の付加料金を支払うことになります。

さて推移をみると、両社ともにジェット燃料価格推移に燃油サーチャージ価格が3~4か月ほど遅れて推移していることがわかります。またコロナ直後で原油・ジェット燃料価格が急速に高騰していたことをみましたが、燃油サーチャージも特に2022年に入ってから加速度的に増加しております。2021年5月ごろまでサーチャージがかかっていなかったのが、今では欧米便片道だけで5万円程度かかりますので驚異的です(筆者は2020年春ごろに、全込6万円程度で日欧間を直行便で往復できました)。

 ジェット燃料はコロナ前の2ドル/ガロンの2倍の4ドル/ガロンを推移しており、極めて高い状況にあります。直近ではWTIは2022年3月に最高値の約130ドルをつけました。また今月(6月)上旬には123ドル程度の高値を付けております。現在はインフレと利上げによるリセッション(景気後退局面)観測の影響等で少し下落傾向ですが、中国経済(上海ロックダウン)の回復と夏の旅行需要の拡大でジェット燃料高がまた進む可能性もあり、燃油サーチャージはしばらくは現在同等かそれ以上をつける可能性も考えられます。今後WTIが120ドルまたはジェット燃料が4ドル以上を継続的に推移した場合、燃油サーチャージが更に増額される可能性があります。

 現在はコロナからの回復で、これまでコロナの影響で飛行機を使った旅行が出来なかった人々の旅行需要は大変高まっており、前記事で見た通り北米エリア等での航空需要回復は目を見張るものがあります。一方で航空券は原油高の影響で過去にないほど高騰しており、今後、航空需要への悪影響が懸念されます。

Sean

海外で航空輸送のデータ分析業務に関わる筆者が、気のままに航空輸送に関する情報を提供します。

航空業界を目指す就活生、航空株を検討する投資家、航空業界関係者、航空ファン、その他航空輸送に興味ある方々の参考になれば大変幸いです。

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